前がん状態と前がん病変

 

がん検診や人間ドックなどの検査で、「前がん状態」や「前がん病変」という診断を受けたことがある人も多いと思います。この2つには「がん」という文字が含まれていますが、通常のがんとは異なります。病理学上では、「がんかどうか」という二者択一で分類するため、「どちらともいえない状態(中間状態)」というのは存在しませんが、放置するとがんが発生する可能性が高いと考えられる場合、その病的状態を「前がん状態」と呼びます。

 

前がん状態の定義は、「がん発生の危険性が有意に増加した一般的状態」となっています。その一方で、前がん病変の定義は、「正常組織よりもがんを発生しやすい形態学的に変化した組織」となっています。前がん状態も前がん病変も、放置した場合、がんになる可能性が高いという点では同じです。そのため、前がん状態と前がん状態が同義語として使用されることもあります。

 

また、前がん状態は「異形成」とも呼ばれています。異形成とは、細胞が正常では見られない形態になることであり、形態変化の一種です。通常、上皮組織や造血組織に生じるものを指します。異形成の代表的なものとして、子宮内部に発生する異形成があります。子宮内部に発生する異形成の主な要因は、ヒトパピローマウイルスの持続感染です。

 

ヒトパピローマウイルスに感染しても、ほとんどの人は免疫機能によってウイルスを体外に排除できます。しかしながら、ウイルスを排出できずに感染が長期化すると、異形成になることがあります。異形成の一部は、子宮頸がんへ移行しますが、異形成の段階でしっかりとした治療を行えば、がんには移行しません。

 

また、日本では、がん検診の受診率は右肩上がりで推移しています。国立がん研究センターの調べによると、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮がんの各検診において、前回(2010年)の調査結果を大幅に上回っています。

 

もちろん、検診の受診率は上がりさえすればいいというものではありません。検診の受診率が上昇したのであれば、それに比例してがんの死亡率が低下しなければ意味はありません。検診というのは、「手遅れになる前に病気を発見して適切な治療を行うことで、その病気によって患者が命を落とすことを防ぐ」ために行うものです。

 

しかしながら、検診を実施するのはとても難しいです。現代においては、日本や欧米などの「裕福な国」が検診を実施しており、発展途上国などの「貧困国」では検診を実施していません。検診に限らず、医療というのはとにかくお金がかかります。「金の切れ目が命の切れ目」になるケースは、非常に多いです。

 

ただ、世界各国の医療事情を見ると、「日本は恵まれた国だな」とつくづく思います。国民皆保険制度が導入されていて、患者が少ない負担で高レベルな医療を受けられる国というのはごくわずかです。この点だけでも、日本という国がいかに恵まれているかがわかります。

 

国民皆保険制度の弊害として、「コンビニ受診」や「3秒診療」などが挙げられることもあります。しかし、ほとんど全ての国民が必要な時に十分な医療を受けることができて、がんなどの重篤な病気(命を落とす可能性が高い病気)の罹患率が高い高齢者の大半が検診を受けることができる日本という国は、疑いようもなく「医療に恵まれた国」です。